危険性を孕むマイナス金利がスタート 【パート1】

日銀は先月28日と29日の金融政策会合でマイナス金利の導入を決定し、今月16日より正式に実施されます。

導入の決定に際し、日銀黒田総裁は「金融機関や経済界に大きな影響はでるとは思っていない」と説明しましたが、本当にそうなのでしょうか?
マイナス金利とは何か、どうして日銀は導入に踏み切ったのか、その効果は、影響は、などについて考えてみましょう。

マイナス金利とは

民間銀行は日銀に預金していますが、マイナス金利下では預金をしても民間銀行は逆に日銀に金利を払わなければなりません。
違和感が生じる話ですが、マイナス金利で借入れすると金利収入が発生します。

日銀がマイナス金利の導入を決定した狙いは、景気浮揚効果による物価上昇を導くために、民間銀行に世の中へのお金の供給を増やしてもらうことです。
資金を日銀に預けて金利を払うくらいなら貸し出しや投資に振り向けた方がましと受け止めてもらおうとしているのです。

日銀がマイナス金利を導入する理由

日銀はこれまでの約3年間、民間銀行から国債などを買い取る量的金融緩和を続けてきました。
しかし、その効果は空しく物価がなかなか上昇しないことに業を煮やして日銀は今回の導入を決定したのです。

昨日2月8日に日銀は、先月28、29日の金融政策決定会合での出席者の発言をまとめた『主な意見』を公表しました。
マイナス金利導入までの過程が記されているもので、9人の政策委員の中から「金融機関や預金者の混乱・不安を高める恐れがある」などの多くの反対意見も続出し、かなりの議論が戦わされたようです。

投票5対4、薄氷の末導入された…

かなりの激論の末に導入されたのですが、政策委員9人のうち5対4の薄氷で決まったのです。
導入の決め手は、原油安や金融市場のリスクオフ(回避)が「物価の基調」に悪影響を及ぼすリスクがあり、『追加緩和でリスクを未然に防ぐべき』『マイナス金利は、大規模な国債買い入れと合わせ、金利を一層引き下げる効果を発揮する』などの意見だったわけですが、多くの反対意見も出されてから5対4で決まっており、今後反対意見が現実のリスクとなりえる可能性もあるのではないでしょうか。
同席していたオブザーバーの政府出席者ももろ手を挙げて賛成しなかった模様です。

黒田総裁は導入に際して『金融機関や経済界に大きな影響はでるとは思っていない』と強調しましたが、マイナス金利にしたからと言ってそうそう簡単には期待した効果が上がらない危険性を以下に述べてみましょう。

金融機関の融資審査基準は変わらない

日銀が決めたマイナス金利策とは、金融機関が利用している当座預金の一部について、マイナス0.1%の金利を適用するものです。
金融機関にとっては、資金を預けると金利手数料を払う形になる、「そんなのバカらしい」となれば、当座預金の残高は減り、民間企業への貸し出しに回って、経済が活発になるという『捕らぬ狸の皮算用』です。

黒田総裁は甘い理想を思い描いているようですが、ことはそう単純に運ばないのが現実で、マイナス金利の恩恵に預かれるのは一部の業界や企業でしかなくなる可能性があると思われます。

その理由は非常に簡単です、世の中の資金は、目先儲かりそうなマーケットにしか流れないからです。

もしも貸し出しが増えるとすれば、値上がりが見込める都心で開発を進めている不動産関連や、東京五輪の恩恵を受けている企業向けぐらいでしょう。
マイナス金利が始まったからといって、それら以外の企業に対しては今まで通りの付き合いしかせず、銀行が融資基準を甘くすることはまず考えにくいことです。ですからマイナス金利によって企業融資が増えたりすることは期待できないはずです。

『繊維』『汎用機械』『小売り』『宿泊・飲食サービス』などの多くの中小企業の資金繰り状況は苦境にあることは明白です。
資金繰りが『楽である』から『苦しい』を引いた値は、ずっとマイナスであり、融資審査基準が変わらないままならば苦境に立たされている中小企業への融資枠を拡大して融資の実行が増えることは簡単にはないでしょう。

金融機関の業績悪化、中小零細企業の倒産、そして完全失業者の増加?

マイナス金利に連動する形で貸出金利も下がると金融機関の業績が悪化することは、すでに多方面で指摘されています。
過去における金融機関の業績悪化や金融危機において貸し渋りや貸しはがしが大量に発生したことは動かぬ事実です、そうなると、資金繰りに困った会社は次から次へと倒産する可能性は完全否定できません(現在の日本の完全失業者数は約220万人ですが、1990年代後半から2000年代初めにかけて、日本では毎年2万社近くが倒産。350万人以上が職を失った)。

もっとも今回は、過去と違う仕組みで企業が倒産していく可能性もあります。

マイナス金利の対象は16日から民間銀行が日銀に新たに預ける分で、それ以前の部分は適用除外されます。
金融機関が受けるダメージを軽減するためと日銀は言っていますが、黒田総裁は『今後必要な場合には、さらにマイオナ金利を引き下げる』としてるので導入以前の分にも適用されていく恐れはなくはありません、金利をさらに引き下げる代わりに導入以前の当座預金にも適用する手もあるからです。

もしそうなると、貸出金利には逆のベクトルが働く可能性もあります。

日銀が定める『補完当座預金制度』(用語解説ご参照)に基づく当座預金の『罰則レート』が適用される銀行は、日銀に払う利息分を別の何かで補わなければなりません。預金者の金利をマイナスにすると、取り付け騒ぎが起こりかねないのでNG。
可能なのは、企業への貸出金利を引き上げる方法で、そうやって負担を企業に乗せていかざるをえなくなる、のかもしれません。

いずれにしても、マイナス金利は、資金繰りが苦しい特に中小企業にとってプラスに働く可能性が低いのではないか、多くの企業が倒産に追い込まれたり失業者が増えたりする可能性もあることを頭の片隅にでも留めておいた方がよさそうです。

まとめ

  • マイナス金利下では民間銀行が日銀に預金すると日銀に金利を払うことになる。物価上昇を促すために預金の代わりに貸し出しや投資を通して資金を民間経済に回してもらおうとしている。
  • 過去数年間の量的・質的金融緩和だけではインフレ目標2%を達成させられなかったため「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導入した。
  • マイナス金利導入は、薄氷の末、金融政策決定会合で5対4の投票で決定された。同会合では多くの反対意見もだされていたことから、今後反対意見で指摘された諸リスクが表面化する可能性も否定できない。
  • 世の中の資金は、目先儲かりそうなマーケットにしか流れない性質から、マイナス金利による貸し出し等による資金供給は簡単に増加しない可能性がある。また、マイナス金利が導入されたかといって金融機関が融資審査基準を甘くすることは通常考えにくい。
  • マイナス金利に連動して貸し出し金利も下がれば金融機関の業績が悪化する可能性があり、中小企業等に対する貸し渋りやはがしが発生する危険性もある。そのような場合には中小企業の資金繰り悪化から倒産が続出する恐れもあり、雇用情勢の悪化に結び付いてしまう可能性もある。

用語解説

補完当座預金制度

 

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